「お申し付けください」とは、簡単に言うと「依頼や要求、希望などがあったら言ってください」という意味です。
「お申し付けください」を分解してみると「申し付ける」と「ください」の構成になっていて、「申し付ける」が「言い付ける」の謙譲表現(へりくだった敬語)、「ください」が命令や要求を表す尊敬語になります。
したがって、「何か希望やお願いごとがある時は言ってね」ということを述べたい場合、「お申し付けください」と表現します。
「お申し付けください」の使い方は?
「お申し付けください」は、何かを引き受けている場合、請け負っているような場合に使われます。したがって、自分が何かを言いたい場合、お願いをしたい立場の時には使えませんので、ご注意ください。
たとえば、ある企業に所属していてイベントの企画をしていたとしましょう。顧客や取引き先に対して、「希望や要求、してほしいことがあったら言ってね」というようなことを述べたい場合に「お申し付けください」が使えます。これは、イベントの企画を引き受けている立場、仕事を請け負っている立場だからこそ使える言葉です。
このように「お申し付けください」は、自分が引き受けている側、請け負っている立場である時に使える言葉だということを覚えておきましょう。
「目上の人」に使える?
では、「お申し付けください」は目上の人に対して使って良い言葉でしょうか。結論を先に言うと、「YES」です。
前述で軽く触れていますが、「お申し付けください」は「言い付ける」を謙譲語(敬語の一種)で表現した「申し付ける」に、命令・要求・依頼を表す「ください」が付いた言葉で敬語表現になっていますので、目上の人に使って問題ありません。
したがって、上司や取引先企業、顧客などに対して「何か希望があったら言ってね」ということを述べたい時には「お申し付けください」を用いましょう。
メールでの使い方!
メールにおいても「お申し付けください」は使うことができますが、「気を使わなければならない相手」にのみ用いるようにしましょう。
前述したように、自分が何かを引き受けている時、請け負っている立場の時に、上司やお客さま、依頼主、取引企業などのような目上の人に対して「お申し付け下さい」を用いますが、近しい上司や先輩などに対しては「お申し付け下さい」はあまりふさわしくないので注意が必要です。
近しい間柄の人に「お申し付けください」を使ってしまうと、なんだか仰々しく感じたり、他人行儀のように思えてかえって失礼にあたることもあるため、「気を使わなければならない相手」が確定的である場合にのみ使うようにしましょう。親しい間柄の人に対しては「おっしゃってください」「ご連絡ください」という表現にしておいた方が無難です。
丁寧に言いたいなら「~くださいますよう~」
「〜してください」という表現は、実は命令口調です。「〜してくれ」を尊敬語表現したものが「〜してください」になり、これは一見すると丁寧なように感じますが、根本的には命令口調であることに代わりはないので、それほど丁寧な表現ではないと言えます。
なので「お申し付けください」とは、実は「希望や要望があったら言ってくれ」ということを敬語を使って表現しているに過ぎません。
「お申し付けください」をもっと丁寧な言い方にしたいなら、「お申し付けくださいますようお願いいたします」などと表現しましょう。後ろに「お願いします」「お願い申し上げます」を付けることによって、命令口調ではなく依頼文に変化します。
「お申し付けください」と言い切ってしまうのは不躾に感じることもありますので、できるだけ「お申し付けくださいますようお願いいたします」の表現を心がけましょう。
敬語の復習をしよう!
「お申し付けください」の敬語表現の説明の前に、まずは敬語について簡単に復習してみましょう。
尊敬語とは?
「尊敬語」とは、敬意を払った表現を指し、主に目上の人の動作について述べる場合に用いられます。たとえば、「社長がお越しになった」「お客さまがお召し上がりになる」など、立てるべき人の動作を述べる場合に尊敬語が用いられます。
尊敬語で表現するには、「お(ご)〜なる」「なさる」「される」の型に当てはめるタイプと、単語そのものが変形するタイプの2種類があります。型に当てはめるタイプの例を挙げると、「聞く」の「お聞きになる」や「帰る」の「お帰りになる」「帰られる」などがあります。
また、単語を変形させるタイプのものには、「言う」の「おっしゃる」や「食べる」の「お召し上がりになる」などが挙げられます。単語を変形させるタイプの尊敬語は、数はそんなに多くないのでこの機会にぜひ覚えてみてください。
謙譲語とは?
「謙譲語」とは、自分を下に置くことによって、相手を間接的に立てた表現の敬語で、俗に言う「へりくだった表現」と呼ばれるものになります。尊敬語は目上の人の行動を述べる場合に用いられますが、謙譲語は自分の行動について目上の人に向かって述べる際に使いますので、この両者の違いをしっかり把握しておきましょう。
謙譲語で表すには「お(ご)〜する」の型に当てはめるタイプのものと、単語が変形するタイプのものがあります。型に当てはめるタイプには「ご連絡する」「ご報告する」などが挙げられ、単語を変形させるものには「もらう」の「頂く」や「行く、来る」の「参る」などがあります。
「目下の人」にも使える?
謙譲語は、目上の人に対して自分の行動を述べる場合に用いられる敬語だと前述でご説明したように、例えば「上司に(私が)報告する」ということを謙譲語を使って述べる場合は「上司にご報告いたします」となります。
では、「目下の人」もしくは「自分と同等の人」にも謙譲語は使えるのでしょうか。結論を先に述べると、答えは「NO」です。
前述したように、謙譲語はへりくだった表現です。敬語のルールとして、目下の人に対してはへりくだる必要がないとされているため、部下や同僚などの目下(同等)の人に対して謙譲語を用いるのは間違った使い方になるので注意しましょう。目下(同等)の人に対しては、謙譲語ではなく、丁寧語で表現すればOKです。
丁寧語とは?
「丁寧語」とは、文末に「です」や「ます」「ございます」がついたもので、丁寧を表す敬語になります。一番馴染みのある敬語ではないでしょうか。
なので、「おはようございます」「言います」「伝えます」「これです」「あちらです」は、敬語での表現をしています。
「お申し付けください」の敬語での使い方は?
「お申し付けください」は気を使わなくてはならに相手に対して用いると説明しましたが、次は敬語での使い方についてご説明します。
「お申し付けください」は尊敬語なのか?
「お申し付けください」とは、前述したように「言い付ける」の謙譲語「申し付ける」に命令・要求を表す尊敬語の「ください」がくっついた形になっており、「お申し付けください」は尊敬語なのか謙譲語なのか分かりにくく感じてしまいますが、実は尊敬語としての表現になります。
「言う」の謙譲語の「申す」が入っているので非常に分かりにくい構成になっておりますが、文末に尊敬語である「ください」で結んでいるため、尊敬語としての働きをもっています。「言ってください」や「話してください」が丁寧語ではないように、動詞の部分に着目するのではなく、「ください」の部分に着目しましょう。
尊敬語は目上の人に対して使われる敬語なので、「お申し付けください」は目上の人に対して使える文言ですが、前述したように、あまり丁寧な表現ではないため、目上の人に何かを依頼したい場合は「お願いいたします」などを付け加えましょう。
謙譲語での表現をするなら「〜くださいますよう〜」
「お申し付けください」が尊敬語であると前述しましたが、これを謙譲語で表したい場合は謙譲語である「お願いいたします」や「お願い申し上げます」を付け加えましょう。つまり、「お申し付けくださいますようお願いいたします」「お申し付けくださいますようお願い申し上げます」とすることで謙譲語としての働きをもつようになります。
前述したように、尊敬語の「お申し付けください」は目上の人に対して使って問題ありませんが、何だか不躾に感じる場合もあるため、謙譲語の「お申し付けくださいますようお願いいたします」の方がへりくだった表現になるので、より丁寧な印象を受けます。
以上のことから、目上の人に対して何かを依頼したい場合は「お願いいたします」を付け加えた表現を心がけましょう。
丁寧語にしたいなら「言ってください」
丁寧語は、部下や同僚などの目下(もしくは同等)の人に対して使える敬語です。
「お申し付けください」を丁寧語で表現したい場合は、「言ってほしいです」「教えてほしいです」「知らせてほしいと思います」などと表現しましょう。
「お申し付けください」の例文!
「お申し付けください」を用いた例文をいくつかご紹介します。
「遠慮なくお申し付けください」
「何なりと言ってください」「要求があれば、こちらのことは気にせず教えてください」というような場面で「遠慮なくお申し付けください」が使えます。
以下、例文を参考にしてください。
「必要なものがございましたら、遠慮なくお申し付けください」
「何かご希望がある場合は手配いたしますので、遠慮なくお申し付けください」
「日程や人数の変更などのご希望がございましたら、遠慮なくお申し付けください」
「お申し付けくださいませ」
「何か希望がある時は言ってね」ということを柔らかく丁寧にしたい場合に「お申し付けください」と表現します。
前述しましたが、「〜してください」は尊敬語での表現をしていますが命令口調になるので、場合によってはきつい印象を与えてしまうこともあります。このような場合では、文末に「ませ」を付け加えることによって、柔らかい丁寧な印象を与えることができます。
以下、例文です。
「お気づきの点がございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
「ひざ掛けをご希望の方は、お近くの係員にお申し付けくださいませ」
「ご要望などございましたら、お気軽にお申し付けくださいませ」
「お申し付けくださいますよう○○」
「〜してください」は命令口調なので、もっと丁寧に表したい場合は「お願いいたします(申し上げます)」を付け加えて「お申し付けくださいますようお願いいたします」と表現しましょう。「お願いいたします」を付け加えることによって謙譲語としての表現になるので、へりくだった謙虚な言い方になります。
以下、例文です。
「おかわりをご希望の場合は、お近くの係員にお申し付けくださいますようお願いいたします」
「お気づきの点がございましたら、遠慮なくお申し付けくださいますようお願い申し上げます」
「イベント企画の件で何か変更や希望などございましたら、担当の田中にお申し付けくださいますよう、よろしくお願いいたします」
「申し付け」とよく似た語!
「申し付け」とよく似た語と、それの違いについてご紹介します。
「申し出る」との違いは?
「申し出る」は「自ら希望や意見を言って出る」という意味で、一方の「申し付ける」とは「用件などを言い付ける」の意味を持ち、どちらも似たような意味がありますが、ニュアンスに若干の違いがあります。
「申し出る」は「自分から名乗り出る、言って出る」という単純に「自分が言う」という行動を指していますが、「申し付ける」は「言い付ける」という命令の意味合いが強い表現です。
このように、「申し出る」と「申し付ける」はよく似た言葉ですが、「自分の行動」「命令」という違ったニュアンスを持っています。
「申し受ける」との違いは?
「申し受ける」とは、「願い出て引き受ける、お願いする」という意味があり、要求を受け入れる側が主体となった表現をしています。一方、「申し付ける」は「希望や要求などを言い付ける」という「命令」の意を含んでおり、命令する側が主体となった表現です。
このように、命令の意味合いが強いのが「申し付ける」で「命令をする側」が主体となる表現になりますが、お願い・依頼する意味合いが強い「申し受ける」は「要求を受ける側」が主体となる表現なので、ニュアンスや使い方に若干の違いがあります。
「申し伝える」とは?
「申し伝える」とは、「第三者に伝言を言う」という意味を持ち、「言い付ける(命令)」の「申し付ける」とは意味が異なります。言葉の感じがよく似ていますが、実際は意味が全然違いますので注意しましょう。
「申し付ける」の類語は?
これまで説明してきたように「申し付ける」とは、「希望や要望などを言い付ける、命令する」という意味を持ちますので、これと同じような意味になる言葉が類語として挙げられます。
以下、「申し付ける」の類語をご紹介します。
- 命ずる
- 命令する
- 言い付ける
- 指図する
- 仰せ付ける
「お申し付けください」を他の語に言い換えると?
では、「お申し付けください」を他の語に言い換える場合、ポイントは「(希望や要望を)言いつけてください」という意味にすることです。
なので、「お申し付け下さい」の言い換え表現は「ご連絡ください」「おっしゃってください」「知らせてください」「ご用命ください」などが挙げられます。
「お申し付けください」を使って印象アップ!
「お申し付けください」は、ビジネスシーンにおいて大変便利な言葉です。「何かあったら遠慮なく言ってくださいね」と伝えることにより、相手に安心感を与えることができ、相手に安心感や好印象を与えることができたら好循環が生まれるので、円滑な仕事へと繋がります。それほど言葉遣いはとても重要と言えます。
ですので、「お申し付け下さい」という言葉に限らず、普段から正しい言葉遣いを意識していきましょう。